クラフトレーベル FAT
      アトリエにようこそ!
Today's message from T. Terashima / 寺島 徹
fragment of materials/素材の欠片たち 10  10ミリ角のタイル
「手作りという基本 16」

 FATのアトリエは渋谷と高尾のOto ファクトリーの二カ所。高尾は東京のはずれだがミシュランで三ツ星、ポール一家もお忍びできたちょっと自慢の場所でとても気に入っている。その高尾駅前で神田の古書店(ヒグラシ)の若いお二人が店頭販売をされていた。そこで見つけたのがスクールアートという研究誌。戦後間もない頃美術教師たちがいかに美術教育を真剣に行っていたかが分かる研究誌だ。現代はどうだろう?生徒のために、国のために、人類のために危機感を持って美術教育をしている先生はどれだけいるだろうか学校で教える自分も反省した。最初のページを書いている筆者たち。剣持勇は工芸やインダストリアルデザインについてデザイナーはリビングの医者だと熱く語っている。石井柏亭の内容は面白い。子供たちを美術館へ引率する先生を嘆いている。美術館で走り回る子供を注意しない先生。戦後も今もあまり変わらないと思い微笑ましく思ったが、海外の美術館での教育活動と比較し日本の後進ぶりに危機感を抱いている。海外では子供たちが静かに鑑賞をしている文化の高さを報告、テーマを持って引率する必要性を訴える。それにしても戦後なのにみんな心が豊かだ。美術を真剣に教える教師と教科として浸透している美術。もしかすると今以上に文化的だったのではないだろうか?消費する美術ではなく表現し共感しあえる美術。そして、貧しくても今以上にすばらしいネットワークがある。名簿を見ると
山奥の先生でさえこの研究誌に寄付し参加している。
7月、相模原と町田のアーティストがアトリエ公開を同時に行う。FATも参加する。草の根的でインデペンデントな動き。楽しみだ!
2008.6.1
fragment of materials/素材の欠片たち 9  フランス製のビーズ
「手作りという基本 15」

 数年間ためたビーズを整理し、それぞれに名前をつけた。アクセサリーのウィーブシリーズのパーツである。ウィーブは2000年に発表したビーズのアクセサリー。
 制作にはきっかけが必ずあるが、私は先人たちのイメージによることが多いのではないかと思う。ウィーブはインディアンのアクセサリーの文様、マークロスコの絵などに触発された。また、ある彫刻家の小さなテーブル上の彫刻にテーブルピースと名付けられていたことを知り、ならばアクセサリーはボディーピースだと思った。すると単なるトレンドとしての装身具と考えていたアクセサリーが、普遍性を持ったオブジェに見えてきた。身につける彫刻だ。作るのが楽しくなった。
 ところで、DIY/手作りは真似から始まる!オリジナルなんてどこにもないし、逆に言えば全てがオリジナル。若いスタッフや学生に僕は「まずまねろ!」という。今流にいえばパクリ。みんなオリジナルにこだわるあまり悩んで何もできない学生が多い。悩みもまた青春の輝きだが、手作りはまず手を動かすこと!その先の感動を得るには限界まで手を動かすしかない。利休も言った。学び、破り、離れろと!自分の地図を広げ、くまなく歩き、限界まで行った先に壊すべき風景を知るのではないか。そして新しい何かができる。FATはどこにいるかは分からないが、小さなビーズの2色の境界線に浮かぶホライズンラインにアイレベルを見据え、こころの風景を織り込み続けている。
2008.5.1
fragment of materials/素材の欠片たち 9  直径2.0mm sus304
ステンレスの棒
「手作りという基本 14」

 FATで作ったものを商品と呼ぼうか作品と呼ぼうか?いつも考えてしまう。
ひとつひとつ思い入れがあるので作品と呼びたい、でも商品というプライドもある。かつて民芸の作家がサインを入れないことに感心したことがあったが、作品を入れる立派な箱書きがあることを先日知った。ちょっと残念だけど買い手の心理もあるのか作家たちも揺れていたと思う。われわれも大好きなザッカに楽しんで入れたFATのクレジットについて、ザッカには必要ない!と思ったり、ザッカにも意志がある!ザッカが好きだからこそいれるべきだと思ったりする。でもザッカについて真剣に考えれば考えるほど、ザッカらしさが失われてくる感じもするので考えすぎないことがいいのかも知れない。そうFATは何より「作りたい!」という衝動を大切にしたい。
 ところで、右の写真はアルミカードケースを作り終えた机上の様子。夜更けのワンショット。アルミ板に切り線、折線をけがき、はさみで切り、折り曲げ、磨く。ひとつの作品が出来るまでにひとつ、ふたつと道具が増えてゆく。道具は、製作行程を楽にしてくれる。使い方を工夫すればするほど楽になる。そこが手作りの楽しさでもある。楽は楽しい!でも、楽をするために苦労して作り方を「考えている」自分がそこにいる。笑ってしまう。そんな夢に取り憑かれたらおしまいなのかも知れない。矛盾を知りながら、次の作品へとスパイラル状にその思考?試行?嗜好?はどんどん続いてしまう。それにしても本当に多くの道具があるものだ。もしかすると作りたい衝動以上に道具を手に入れたい衝動の方が上なのかもしれない!
2008.4.6
おわび
 子供用のがらがら、リズムボールの蓋が取れたという報告がありました。破損されたお客様にはご迷惑とご心配をおかけいたしましたことを深く反省し慎んでお詫び申し上げます。
 なお、詳細は分かり次第ホームページに掲示いたします。店頭分につきましては確認のため全て回収中です。
 現在、リズムボールの中には金属製のすずが1つ入り、それをクローバーのふたで市販の木工ボンドにて接着封印した構造になっております。今後の仕様は、木製ピンの使用と接着剤の改良、すずの縫い付けを行い全て確認の後改めて店頭に出荷する予定です。
 またご購入いただきました方で、ご希望の方には、木製のピン入れをいたします。メールにてお申し込みください。
fragment of materials/素材の欠片たち 8 カリンの板材
おわび
 子供用のがらがら、リズムボールの蓋が取れたという報告がありました。破損されたお客様にはご迷惑とご心配をおかけいたしましたことを深く反省し慎んでお詫び申し上げます。
 なお、詳細は分かり次第ホームページに掲示いたします。店頭分につきましては確認のため全て回収中です。
 現在、リズムボールの中には金属製のすずが1つ入り、それをクローバーのふたで市販の木工ボンドにて接着封印した構造になっております。今後の仕様は、木製ピンの使用と接着剤の改良、すずの縫い付けを行い全て確認の後改めて店頭に出荷する予定です。
 またご購入いただきました方で、ご希望の方には、木製のピン入れをいたします。メールにてお申し込みください。
「手作りという基本 13」

ホームセンターは地域によって品揃えが違う。アトリエ近くの相模原のカインズホームにはジャガイモの種芋や動物よけが売っている。今年は蒔きストーブも充実していた。講師を務める学校のある大田区の島忠では、溶接用の素材が充実している。事務所のある渋谷のハンズでは、アクリルや木材、金属のサンプルが全て揃う。僕は運良く東京を縦断ながら生活しているので素材の発見が多い。そんな中で、それぞれのホームセンターで売れそびれたものに出くわすことも多い。多分場所が違えば売れるだろうものが半値以下であったりする。先月、島忠で天然の砥石が半値でワゴンに入っていた。五十嵐砥980円。いつもは刃物の研ぎには電動の同軸の研ぎ機か、学生時代に支給された人造砥石を使っている。たまたま自宅の包丁をすぐ研ぐ必要性があったので、30分悩んだ末、アトリエから砥石を運ぶより楽だと思い購入した。じっくり水に浸け、高村光太郎がしたように家族が寝静まってからそっと研ぎ始めた。
シャッツ、シャーッツ。なんという気持ちのよい研ぎ加減のよさ。おどろいた。水が程よく吸い込み、石の粒子も適度な粘り気で刃を研ぎすませながら滑らせてくれる。0.01ミリかは分からないが、そんな感覚で刃先が減って行くのが感じられる。キッチンにあるアイデア商品のセラミック研ぎ機が馬鹿みたいに感じられた。なんと簡単にすばらしい切れ味になること。その夜合計で鉄の包丁から、ステンレスの包丁まで5本の包丁を研いだ。もちろん翌日から、アトリエのメインの砥石になった。ネットで初めて砥石の検索もした。十数万円の砥石があった。産地や形状で様々だ。奥が深い。けれど何より、処分品との出会いで人生の考え方が変わるというホームセンターのワゴンもまた奥が深い。
3/17 砥石についてのコメントがありました。
2008.3.7
fragment of materials/素材の欠片たち 7 けやきの板材
「手作りという基本 12」

 単管は工事現場でよく目にする足場用の骨組み。これに接続用のクランプがあれば簡単に仮設の小屋は出来る。そしてそれに、波板を貼れば雨風は防げる。写真は2月1日に波板を壁面に貼る様子。ヨコ木を渡し、白ペンキを塗る。ねじで波板を貼り完成。ホームセンターで買い、そのままトラックを借りて材料を運ぶ。最近はどこでもクルマが用意してあるから大きな材料も気軽だ。3時から作業を始めて、5時、冷え込む寸前に作業は完成。4000×4000の壁面の半分が終了。右奥の写真は半透明の波板から照明がうっすらと透過しちょっと幸せなひと時。
 ところで、DIYで小屋を造ってみると、家が生きるための道具である事に気付く。右の小屋は撮影スタジオを兼ねた作業場。自然光がふんだんに入る様に四方を半透明にしてあるが、この時期結露で朝水浸しという事がよくある。今までいくつかの小屋を造ったが、冬暖かいと夏暑い。風は入れたいときと防ぎたいときがあり、作品や薬品の日焼けを防ぐ様に北窓にすると、代わりに虫がわいたりカビが生えたり。屋根の傾斜を緩やかにして雪で押しつぶされた経験もある。
 子供の絵本に家を造って行く様子を描いたものがあった。(加古さとし作)FATのアトリエは何も無いところからスタートしているから、良くで来た絵本だと心底思う。床も壁も屋根同様に重要で、トイレや風呂は生活を快適にしてくれる。食事を作ったり食べたり寝たり…。そして人の数だけ個性も生まれどんどんデザインが楽しくなってゆく。
 しかし、見えないところに重要な基礎基本があり、設計する人も、作る人も、木を育てる人も切りだす人、様々な人がいて1つの家がやっと出来る。人間の歴史がある。たった数時間のDIYだけれども、DIYは家の道具としての価値を学ばせてくれる。
この時期アトリエのある高尾は-2°の朝がつづく。プレハブ内は夜に汲んだ水は、
朝凍っている。暖房の工夫が今後の課題だ。都会ではスイッチ1つで暖房が効くが、アトリエではそうはいかない。日光の利用や、蒔きストーブなどコストを掛けないアイデアに挑戦したい。
2008.2.2
Today's message frm T. Terashima / 寺島 徹
fragment of materials/素材の欠片たち 6 カツラの板材
「手作りという基本 12」

新年、あけましておめでとう!
FATはハンドメイドによる作品制作を軸に、ワークショップやクラフトコーディネートを通して、みんなとアートやデザインのことを考え、日常生活の中に提供し、楽しませたいと思います。
今年もFATをどうぞよろしく。

新年に合わせ、最新作の完成プロセスを紹介します。

1 FATオリジナルの木製スタンプでのワークショップが制作の発端。2 出来上がったカレンダーをランプにかざすと、とてもキレイな事に気付いた。3 ランプにどうやって付けるか試行錯誤。4 紙に見合ったパーツの素材を考える。5 製作時間がかかりすぎるので、ワークショップに対応出来る様に「絵や写真」をPCに取り込み、プリンタで作れる様に工夫。

もちろん製品版はFATの隠し味があります。
ぜひ手に取ってみて下さい。そして、自分にでも作れると思ったら挑戦してみて下さい。


もう1つ話題。
昨年から作品に使用している木の記録を残しているが、桂の木をノコギリで切ったら、面白い虫の穴が出てきた。アパートの様に何層にも続き、何匹か生きている。虫の名は分からないがそっとフタをしてとっておいた。木はストック時に、虫に悩まさせるが今回ばかりはいも虫が何に変わるのかちょっと楽しみだ。桂の木はスタンプの持ち手部分になるのだが板目が持ち手にイイ感じだと思う。ここ数年木の名前が少しずつ分かってきて楽しい。今年はさらに色々な木を使いたい。FATの今年の目標です。

シェード用の紙、アルミの脚、プリンタによるグラフィックの組み合わせで、新作ランプのデザインが決定。3時間のワークショップで、作ることが出来るDIYクラフトの完成!
パーツ販売も計画しています。完成版は\6,300-(クシュクシュ)
2008.1.4
fragment of materials/素材の欠片たち 5 スプルースの板材
「手作りという基本 11」

 12月、毎日がクリスマスの対応で追われている。もう何年も同じ事を繰り返しているはずなのに、今年も大忙しで作品作りが間に合わない。そして、なぜ気付かなかったのか?新しい発見がたくさんある。2つ紹介。
 1つは、松かさについて。松かさオブジェのために、サンドブラストで松かさの汚れ落しをしているのだが、その時出るゴミとして捨てていた松かさの種が、すごく良い形をしていることに気付いた。松かさの「かさ」1つに1つ付いているのだが、種には羽が付いてつまんで落とすとクルックルとプロペラの様に回転して落ちる。すごくかわいいので、無傷の種を選び、松かさに付ける事にした。ぜひ手に取って落としてみてもらいたい。
 そしてもう1つ。アルミリースのアルミは機械で伸ばし、ハンドグラインダーとよぶ電動工具で磨いていた。その時、針金がばたついて困っていた。そうならない様に慎重に磨いていた訳だが、電線を留めるステープルを1つ台座に打ってみた。グレーのビニールの付いている二本脚の釘だ。これ1本で全て解決。ばたつく事もなくスムーズに磨く事が出来た。どうして今まで気付かなかったのだろうか?
 当たり前の事なのに気付かない事の多い事を、実感した。心の目を覚まし、意識をしっかり持ち制作したいと再認識。
 師走、街中は電車やクルマより自転車の方が早かったりする。原宿、表参道、代官山と作品の配達で自転車を走らせている。目に映る景色は、葉っぱが色付き、散り行く。そして、それに変わる様にイルミネーションがキラキラと輝きだした。今年もいよいよクライマックスに近づいてきた。
 どうぞ、素敵なクリスマスを!
2007.12.10
fragment of materials/素材の欠片たち 4 かえでの板材
「手作りという基本 10」

 11月、急に寒くなった。寒くなると不安になるのが冬場の光熱費。今年は特に灯油代が気になる。アトリエは高尾山の近く、23区よりかなり寒い。加えてアトリエの光の条件は北の窓だと思ってきたのでアトリエには南の窓がない。そのため昼間も寒い。北窓の理由は、北窓は光が柔らかい事。素材や作品が陽に焼けない事。夏場の危険物の取り扱いの事。だがこの時期になると昼の太陽が恋しくなる。唯一アトリエに適当に作ったほったて小屋だけが南向き。良く言えば半透明屋根付撮影用テラス。撮影のために明るく作った。ここだけが冬場だけ昼間は暑いぐらいに心地よい。もちろん暖房等いらない。ここにいると他の小屋も南に窓を付けておけば良かったといつも後悔する(夏は居られないが)。北向き窓にはもう1つ欠点がある。湿気とカビだ。北と南、一長一短。みんなどうしているのだろうか?
 もちろんアトリエも半分は手作り。自分たちで作って分かった事がたくさんある。雨漏り、湿気、虫の侵入、木の腐り。これからの時期は天井の結露も始まる。朝くると雨漏り以上の水浸し。昔、加古サトシさんの絵本で家作りのものがあった。子供のとき大好きだった絵本で、家に必要なものを1つ1つ作り上げて行くプロセスが楽しい本だ。それを読むと改めて家は本当に快適な道具だと思う。
 アトリエの写真を見せたいが何のデザイン性もないただの小屋なので、代わって休日訪れた代々木公園のテーブルとベンチの写真。頭上の木々もずいぶん葉が落ちて、心地よい日溜まり。自然の暖房と光。分厚い無垢の木の長椅子と長机。仕事をしている人も居る。結構暖かくて、ほっとするデザインだ。よく公園にあるものだけど誰がデザインして誰が作っているのだろう?調べたら面白そうだと思った。
2007.11.23
fragment of materials/素材の欠片たち 3 カバザクラの板材
「手作りという基本 9」

 写真はツイッグの部分。1999年の春に発表した7オンスまたは10オンスのタンブラー(グラス)用の小枝の形をした花留めは、ステンレスの丸棒を1つ1つ溶接しながら作り出す。立体構造なので1つを溶接してから磨き出しす。3回その行程を繰り返す。ツイッグを手に取って是非見てもらいたい。歪んだ磨き跡がツイッグ全体を生きた小枝にしている。形態はグラスに花を生けるときのバランスをとる花留めだが、実はこのバラスは見た目ではなく、都会の道端で偶然見つけた花(雑草なのかも知れないが...)を持ち帰った花と自分の思いとのバランスをとることが目的だった。クレジットのtokyoには思い入れがある。そしてこのツイッグの製作
作業ほとんどがスタッフの岡村夏子の手で行われてきた。そのツイッグ、今月1000個目を出荷した。数カ所での販売しか行われていないツイッグ、しかも、一日にほんの僅かしか生産出来ないツイッグを彼女は淡々と地道に作り続けてくれた。記念すべき1000個目のサインに、彼女は次の1000個も夢描いてくれた。
2007.10.25
fragment of materials/素材の欠片たち 2 ヒノキの板材
「手作りという基本 8」

 古木の古材は表情があってよく使う。その際釘を抜かなければならないことがある。バール/釘抜きで釘を抜く訳だが、さび付いた釘はなかなか抜けない。早口言葉にあるように引き抜きにくい釘をキュッキュッときしませながら何とか抜く。抜けたときの快感はちょっとうれしく、その抜け殻は実に良い形をしている。L字に曲がっているのは僕が抜いた跡で、これもちょっとした達成感でうれしい。なんか長年築かれた時の流れを征服した感じでもある。木が腐り真っ直ぐ抜けることもある。それには無作為の侘び寂びを感じる。いずれにせよこの釘は誰かが金槌で打ち付けたものだ。ここには最初の一歩と言うか、小さな作為が感じられる。「手作り」人の作為そして意志。これもなんか嬉しい。さびて曲がった釘はリサイクルは出来ないけれども何か先人と繋がっている感じがする。もちろん山ほど集めればさびていたってもう一度溶かすことも可能だ。        ところで最近は釘を使うことが減っている。昨今のDIYではドリルで穴をあけ、ドリルでビス留めをすることが多い。アトリエでも周りに立つ住宅が気になりトンカチ!と釘を打つことを遠慮している。それはそれで進化でもあると思うけれども、釘抜きで抜いた釘の頭が1つ1つ丁寧に目立たないようにつぶされているのを見るとこの釘1つ1つが過去のものとして捨てられない。
2007.9.3
 fragment of materials/素材の欠片たち 1 スギの板材
「手作りという基本 7」

 郊外にあるエフエイティーのアトリエ近くにホームセンターが乱立する通りがある。20年前は丘陵だったその辺りは、都市整備のミスか、少し前まで荒涼とした空席だらけの砂漠であった。その膨大な土地に近年ホームセンターが増え出した。
 タテに伸びる都心建築に対しここではヨコにヨコに広さを競う。僕たちの事務所のある渋谷とはまた違った東京だ。とにかく広いホームセンターには、いつでも家が数件建つ程の資材で溢れかえる。
 日本でのモノ作り社会は崩壊したと言われているが、それでは困る。モノ作りには人間の人間としてのスピリットが息づいている。人間には作らなければ生きて行けない遺伝子がある。
品良くまとまる前に、たくましいフロンティアスピリッツも必要だ。ホームセンターにはそれに答えてくれる多くの材料がある。
 嬉しいことにホームセンターは、土のついた、ペンキのついた、汗のついたユニホームで買い物が出来るとってもヒューマンなストアでもある。
 僕たちは今日もホームセンターの無料トラックを借りて4メートルのSPF材を沢山買ってきた。なんと一枚800円。通販の格安チャイナ家具もいいが僕たちは自分で作る。「Do it yourself!」ホームセンターには新しいこれからの生き方がある。
2007.8.3
「手作りという基本 6」

 1900年前後にヨーロッパで流行したムーブメントにアールヌーボーがある。動植物をモチーフに曲線を多用したスタイルはそれまで肖像画や宗教画に慣れ親しんでいた西洋の人にとって新しいものであり、それは貿易を通して知った日本の美術の影響でもあった。日本人の心には小さな動植物を愛おしく思う心がある。ただただ自然でありたいと思う様な精神性さえ古くから生活の中に根付いていた。
 写真はアトリエ前の小川の蛍の火影。無数の蛍が「ホーッ、ホーッ」とあちこちで瞬く。よく見ると2匹ずついるのだろうか?この世のものとは思えぬ様な幻想的な光景を毎年目にする。         
 アールヌーボーでは産業革命に反する様に手仕事の工房が栄えた。ラリックやドームのガラス工芸は蛍の灯火の様に神秘的だ。技術、革新、精神性。誠実な姿勢の奥から感じる力はいつの世も強い。
 自然を目と手と心でデッサンし、FATもいつかその境地に達したい。
2007.7.3 アトリエにて撮影

2007.7.3
テラシマ トオル

「手作りという基本 5」

 モノを作るということは手作業から始まる。人間の手はとても小さなものであるが、時にとても大きなものを作り出す。その昔ガリレオはレンズを作り夜空に向けた。そして、その小さな望遠鏡で次々と夜空のディテールを見い出した。先日、渋谷のビルの屋上で天望会があり参加した。ドブソニアン式と呼ばれる考案者の名の付いたDIY型反射望遠鏡を夜空に向ける。ライトアップされた飛行船や発着陸する飛行機蛍が飛び交う都会の夜空でも、月の海、少しかけた金星
、土星の輪が見えた。ところでガリレオはどうやってガラスを磨いてレンズを作ったのだろう?レンズの美しい曲面を作り出すために両手で丁寧に根気よく研磨する彼の姿が思い浮かぶ。瞬く恒星に鏡を向ける。不思議なことにそれはガリレオがまだ生まれぬ遥か以前の光だ。そんな壮大な宇宙だが「手作り」で自分と遥か彼方の宇宙が身近に繋がる。その夜、僕は宇宙という大きな1つのシステムに自分が取り込まれている事を実感した
2007.5.26 渋谷にて撮影

2007.6.2
「手作りという基本 4」

 アトリエの花壇にレンゲが一輪咲きました。アトリエ周りに、毎年いろいろな花の種を蒔き楽しんでいますが、どういう訳かどこでも成長しそうなレンゲだけが咲かないのです。無数に芽は出るのですが...しかし、今年は一輪ですが咲きました。大切な一輪です。植物の種は蒔く時期がありそれを逃すと次のシーズンまで待たなければなりません。時を同じくして新作展が終了しました。アルミニウムをテーマに決め数ヶ月、沢山のアイデアがありましたが、完成出来たのはほんのわずかです。期限があることなので、会期直前は焦りとの戦いでした。でもそれがデザイン、そしてクラフトの楽しみであり、デザインしたものを自分たちで作り販売することは、作品という枠を超えて商品として人の手に渡る喜びがあります。レンゲの種はもう少し研究をして秋にまた蒔こうと思います。同じ様にFATの次の発表の計画もまた進め始めました。どうぞ楽しみにしていて下さい!
2007.5.1 アトリエにて撮影
2007.5.9