クラフトレーベルFATの
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animation
object of FAT
no sound version
by
Kouhei Ichiyama

 
  fragment of materials/素材の欠片たち 16  sus304の表面  
     
  都市の中で等身大で生きること   
 



2つの看板の対比が魅力的な
ビルの4階に
ファーマーズテーブルはある。

■ファーマーズテーブルが恵比寿に移転した。ファーマーズは憧れのカフェ+雑貨屋屋さんだ。雑誌「天然生活」今月号をみるとその素敵な変遷がよく分かる。そのスタートは表参道ヒルズの前身である同潤会アパートメントだ。その古びたモダン集合住宅は、表参道の空を覆うケヤキ並木に沿うように、表参道のランドマークになっていた。歩道に揺れる木漏れ日は、アパートと一体化して、また時代の経過は至る所に温故知新な情緒を醸し出していた。たとえば雑草か花壇か判別の付かぬが無作為に散在する共有地、きしむ音がするブランコや幾重にも塗り替えされた滑り台、作りかけの手作り看板、年代の分からぬ小型の外国車、個性的なスタイルをした若者の井戸端会議…そして木漏れ日はガラス窓の奥から漏れる昼間のハロゲンライトと打ち消し合うように釣り合っていた。ちょうど同潤会アパートメントが、古くからの住民とそこを発信地とするクリエイティブな人々とが同じ空間と時間を共有するかのようであり、同時に表参道の魅力だった■いったいそんな場所にお店を出すことを、だれが最初に思いついたのだろうか?外からは分からぬ小さなギャラリーや洋服店にたどり着くためには、歩道に出ている手作りの看板をたよりに、おそるおそるせまい階段をのぼるしかない。扉を開けるドキドキ感があった。中の様子の分からない。間違えると住人が出てきてしまうのでは…そんなささいな緊張感が当時はあった。その上、小さな空間でお店をひとりで切り盛りする店員さんと1対1になる緊張もそある■ものにあふれかえり始めた日本で、明らかに前衛的な人々を引きつける磁場があった。高度経済成長を遂げた日本的な資本主義は、やたら売り込もうとする態度を持たない店主、またそんな言葉の投げかける必要もないショップを生み出すまでに成熟していたのだと思う。日本人本来の志向と思考に回帰する余裕が生まれていた。そして、自信を持ってセレクトした品々は、納得する者の手に渡っていった。お互いに相通じる感性を持ち共感しあう。お店は一種の表現だった。そう、ファーマーズもそれと同じ立ち位置にあった。さりげなくても、いやさりげないからこそ最初の雑貨屋さんで唯一無二の存在だったと思う■そんな憧れを持ち続けて10年、FATの作品がファーマーズに置かれるようになった。夢が現実になる、それも表参道の魅力だった■日々移り変わる都市の中で等身大で生きることは本当にむずかしい。流されず、自分をしっかり持つこと。都会では判断や決断をしないと押しつぶされてしまう。ファーマーズは、また今回も期待を裏切らず一歩先を歩んでくれた。有名ブランドに埋め尽くされて今は消えつつある当時の表参道の空気は、恵比寿へと流れ初めている。

2010.9.1 寺島トオル

※ファーマーズテーブルさんの新店舗の準備記事が雑誌「天然生活」今月号に特集で出ています。ぜひご覧下さい!

 

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